「怖れ」の正体を見極める

サラリーマンをやめて独立するときなどに、必ず頭をよぎるのが「もし失敗したらどうしよう」という恐怖。特に結婚して子供がいたりしたら、余計にそうですよね。収入の柱がなくなる恐怖は誰にでもあります。家を買って長期ローンでも始まっていたら尚更です。

でも、よく考えたら「失敗」ってなんでしょうね。何か具体的にイメージして怖れてるんでしょうかね?

起業における失敗とは、恐らくお金にまつわることでしょう。金融機関に借入れしたけど売上げ減少で返せなくなって、いわゆる「首が回らない」状態で、会社が潰れ、個人の生活がままならなくなる、という感じでしょうか?

では、ひとつひとつ「正体」を見ていきましょう。その前に、「会社のお金と個人のお金はまったくの別物」という大前提を覚えておいてくださいね。

  • 金融機関に借入れする
    投資フェーズでは借入れは必要なことです。無借金経営というと聞こえはいいですが、かなり潤沢な資金がないと投資に対するスピードが遅くなるという側面があります。私の周りで「いい無借金経営」をしている会社は一社くらいです。ただし、金額にも会社の成長フェーズにもよりますが、資金調達は銀行借り入れ以外の選択肢も複数あり、それらも検討するべきです。
  • 首が回らない
    これは返済ができない状態ですね。そのような経営状況になったときは、まずメインバンクに言ってリスケ(条件変更)しましょう。リスケしている間は新規の借入れは困難ですが、普通の権利ですので堂々と行使しましょう。
  • 会社が潰れる
    リスケしてもまだ返せない。金融機関以外の債務(買掛けなど)や社員の給料もままならない。会社の雰囲気も悪くなって社員も離脱していく。新たな社員を募集しようにもお金がない。事務所を引っ越すにもコストがかかる。想像したくない光景ですね。そうなったら、倒産へのカウントダウンかもしれません。

    よく「倒産」と言いますが、法的には何を指すのかわからない言葉です。会社の法的整理には、破産、特別清算、民事再生、任意整理といった種類がありますが、そのような法的整理をする会社は実は少数派で、多くはそれもできずに消えていきます。いわゆる「夜逃げ」です。夜に逃げなくてもそう呼びます。

    冒頭、「会社のお金と個人のお金はまったくの別物」と書きました。当たり前のことですが、その公私混同は会社においてとても問題で、特にこの局面になったときに大事になってきます。

    どういうことかというと、「借りた金は返さないといけない」という当たり前の倫理観は、あくまで個人の話です。会社の場合、基本的に誰に迷惑をかけるというものでもないのです。多くの場合、その意識がメンタルを壊してしまい、取り返しの付かない事態に発展してしまいます。金融機関は常にリスクヘッジをしています。「個人保証」という風習が根強く残っているのも、そのひとつです。
  • 個人の生活がままならなくなる
    想定される「怖れ」は、ここでしょう。しかし、法人というのは『有限責任』という大原則があります。自分が株主として出資したお金が返ってこないのは、出資者が被らないといけないリスクですが、それ以上の責任は負わなくていいのです。それが根本的な原則です。

    では、なぜ倒産後に首を括るほど追い詰められる事例が後を絶たないのでしょうか?

    答えは簡単、何度も言っている「個人保証」です。これがあるから、会社のお金と個人のお金が、まったく同一になってしまうのです。銀行は、公私混同をする会社を評価しないくせに、自分たちのリスクヘッジのために公私混同を強制しているのです。
  • 個人保証を被ってしまった場合
    銀行と話し合って、残りの人生で返せる金額であれば、がんばって返すもよし。仮に50過ぎて億を超える借入れがあるなど、客観的に見て返すのは困難と思える場合、国のセーフティネットを活用するのも選択肢です。法人ではなく、個人破産というのも、国が再起を後押しするセーフティネットです。

    破産というとイメージが悪いですが、それは世間の勉強不足です。中には、会社の経営者でありながら「破産すると選挙権がなくなる」などと犯罪と勘違いしている人もいます。それは極端な例かも知れませんが、一般的は認識はそれとあまり大差ないのかもしれません。

    でも、よく考えてください。借りたのは会社です。あなたではありません。あなたはそれを個人で被ったのです。金融機関のリスクヘッジのために。それを返すのもいい。返せずに国に助けを求めるのもいい。あなたには、国民として既にリスクヘッジが備わっているのです

    個人破産するとどうなるでしょうか。まず、99万円以上の資産は没収されます。住宅は特例もあって一概には言えませんが、住宅以外の資産で債務が解消されない場合は、没収の対象になり得ます。数年は新たな借金ができません。クレジットカードも、返さない人が多いようですが、返した場合、数年は新たに作れません(本当は返さないといけないものです)。そして、全債務が免責されます。そのように、金融機関の信用情報に傷が付くことが、免責とトレードオフの社会的ペナルティといえるでしょう。

    あえて軽く言いますが、その程度のものです。そこからどこかに雇われるもよし、いろいろ学習したことを踏まえて再度起業するもよし。もし健康を害して満足に働けなくなったら、生活保護という砦もあります。

もう大体言いたいことわかりますよね。お金に対する「怖れ」の正体は、個人保証を外すことで解決できます。何度も言いますが、会社のお金と個人のお金は、まったくの別物だからです。それを一緒くたにする人、前述の破産を犯罪と同一視するような人は、申し訳ないですが田舎のお母ちゃんの井戸端会議レベルです。スーツよりも割烹着が似合います。

であれば、これから起業する人は、まず借入れに個人保証をしない。資金調達は、銀行借り入れだけでなく、VCやエンジェル出資、クラファンなど、様々な選択肢も考慮してください。

そして、既に起業して個人保証をしている人は、「経営者保証ガイドライン」を理解して、保証を外せる状態に会社を持っていくことに集中してください。どう考えても条件はクリアしているのに保証を外してくれない場合、金融庁に伝えるなどして戦ってください。それくらい重要なことです。

体とメンタルの健康さえ保てていれば、どんな歳からでもやり直しはできます。ここだけ壊さないように、自分を守って欲しいのです。それが、あなたの家族を守ることでもあります。

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