雇用なしで「成長(スケール)」する方法を考えてみる

極端にアンバランスな労働法

私は、雇用と納税が企業の役割だと思い、その両方を伸ばそうと懸命になった時期もありました。結果、雇用も納税も大してできたわけではないですが、この社会的な使命感は、今となっては変わってきている感があります。これは、社会構造の変化に伴った雇う側、雇われる側双方のマインド変化が大きい。

納税は義務なので、これには従う必要があるし、法の範囲で最大限節約しながら、可能な限り増やしていくのは正しいと思います。社会保険料のアップはいい加減にしろとは思いますが(消費税アップには大騒ぎして、この国会承認不要の料金アップにはダンマリというのも理解不能です)。

しかし、雇用に関しては、もう労働法のアンバランスさが行き過ぎていて、はっきり断言しますが、もはやリスクでしかない。誰も幸せになれない仕組みとすら思います。

そもそも、資本家が労働者から搾取するという前提が明治から変わっていない法律が、今の時代にマッチするはずもない。社員は嫌なら辞めればいい。辞めさせてくれなければ即労基に行けば、100%会社が負けます。どの会社も(能力のある)人材が不足していて、能力次第でいくらでも次の機会がある。日本が世界に誇る雇用保険もある。

辞められてダメージを受けるのは会社です。多くの場合、社員が役割に見合った金額を稼ぐようになるまでには1年以上かかり、それまでは赤字です。長い人だと2年も3年も赤字で、それでも解雇にしないのが日本企業です。

そして、その間なぜかマナー研修等を会社が負担したりします。社会で働くための基本スキルの勉強を、本人の自費ではなく会社が負担するのです。考えたら、おかしなことですよね。恐らく海外の会社ではあり得ません。身に付けてから来いというのが自然です。その専門講師に依頼して、普通の会社でも高級ホテルのような恭しい接客を教えられたり。銀行なんかそれがわかりやすい。心がないのに言葉だけがクソ丁寧で、まさに慇懃無礼な人間を量産します。会社のコストで。

採用段階も含めて、「人」にはそれだけコストがかかり、それを回収するには時間がかかる。人によっては一向に回収できない。それまでに辞められると、数百~1千万以上が羽をつけて飛んでいくわけです。そして、その上で、圧倒的に労働者保護に偏っている法律を盾に、最初から会社と対峙してくる『ブラック社員』も一定の割合でいます

つい先日、こんなことがありました。クライアントの社長との打ち合わせ中に他の社員からの緊急の呼び出しがあり、その社長は少しの間部屋から出て行きました。後で聞くと、退職した社員が「2分」分の時給を付けろ、付けないと訴えると言ってきたと。

自分が押したタイムカードが始業1分前と終業1分後だった日が一回あった。その分が付いてないので、訴えると。時給1,000円として、30円ちょっと。

では、あなたはその「2分」で会社に何かをもたらしたのか?と聞きたい気持ちにもなりますが、ことはそんな問題ではなく。社員が刑事犯罪でも犯さない限りは、基本何をやっても会社が不利です

具体的な例を挙げればきりがないですが、はっきり言って法律を熟知している社員が悪意を持ったらやりたい放題です。断言しますが、そうなると絶対に中小企業は機能しません。対応するお金も時間も人材もないからです。つまり、社員にそんな悪意がないか、法律を知らないか。そうじゃないと中小企業は成り立たない。社員に悪意があるかないか、そんなことに委ねられるという、実は何とも不安定な状態なのです

雇わずに成長(スケール)することはできるのか

では、人を雇わず、「一人企業」で幸せに生きるのが正解なのか。それはもちろん素敵な生き方でもあるのだけれど、人間は成長を欲する生き物でもあります。成長しないと退化します。一人企業でうまくやっていると、ちょっとした成長欲は自然と出てくる。でも、一人ではできることは限られている。

そうなると、通常は

  • 社員(フルタイム/パートタイム)を雇う
  • 他社をM&Aしてオーナー株主になる(経営はしない)
  • 雇用契約のない業務委託を増やす

そんな選択肢になると思います。

ここでは思考トレーニングとして、一番目の社員を雇う選択肢は可能な限り排除して考えてみます。2番目のオーナーになるも、今回はテーマが異なるので、別の機会に書きます。少し深堀して考えたいのは3番目の「業務委託」です。

では、社内の役割ごとに、その可能性を見ていきましょう。

1.役員(常勤、非常勤)
これは役員報酬、(常駐の場合)社会保険等を払う義務があることには変わりありませんが、雇用関係には当たりません。経営サイズに応じて、自分と違うスキルや経験、そして同じ目線を持つ人を役員として迎え入れるのは、成長のためにはとても大切なことで、病気などの不測の事態に代わりを務めてくれる人というリスクヘッジの意味でも重要です。

2.経理
私は社員30人程度でも、経理担当にまかせっきりでしたが、今のクラウド会計をそこそこ使いこなせば、その程度なら社長ができます。というか、より実態を知るために社長がやるべきです。私の友人で、20億の売上を自分で経理している社長もいます。経験上、人が集計した数字を見るのと、自分が集計するのでは、理解度が違います。毎月の試算表は、社長が入力したもので十分です。その方が、より正確に、より早く現状を把握できます。

さらに「雇わない」経営であれば、給与計算の手間なども最小になり、経理もよりシンプルです。ただし、入力作業を溜めないことです。毎日時間を決めて経理処理していれば、実は大した作業ではありません。ITリテラシーは必須ですが。

3.技術
いろんな業種が想定されますが、業務委託で80%以上はカバーできるでしょう。私のクライアントで、100%「常駐外注」で賄っている会社もあります。場所を提供するし、給料も社員と同様ですが、福利厚生等はありません。その方がいいという人も多いはずです。

4.営業
業務委託では弱いのはここです。しかし、レガシーな「営業」として捉えると、できる幅が狭くなりますが、マーケティングを仕組化できていればどうでしょう。たとえば、

  • リストを集める→外注可
  • ステップメールなどでフィルタリングする→自動
  • 契約→IT化可能なものもあるが、基本人力

と、業種にもよりますが、ITリテラシー次第で極小化できる分野でもあります。

5.営業事務
これは外注(業務委託)可能ですね。サイズによっては、パート社員で賄うのもいいですが、その人が休んだり辞めたりすると混乱します。ただし、外注管理に手間がかかる可能性もあるので、ここでもITリテラシー必須です

と、他にも役割は考えられますが、ざっと考えると、雇わずに成長(スケール)できるかどうかは、基本ITリテラシー次第なんですよ。

そして、最後に書いた「休んだり辞められたりすると混乱する」というのが、内製化の大きなリスクでもあります。中小企業は余剰人員が少ない(というか、だいたいない)からです。

今回、思考トレーニング的に『雇わない』且つ『成長できる』方法を考えてみましたが、これ以外にこういうやり方があるという人は、ぜひ教えて欲しいと思います。究極、雇わないスタイルで上場できるような会社が出てきたら、とても素敵だなと思います。

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