オーナー社長なんて存在しない

特に日本の場合、中小企業は資本と経営が分離していないケースが多くあります。要するに、株主であり社長でもあるという存在。自分で創業した人はほとんどそうだと思います。そして、こういう人を指して「オーナー社長」と言ったりしますよね。

でも、よく考えると、オーナー社長という役割なんて、この世に存在しません。オーナー(株主)と社長(役員)はあくまで別物。役員は、株主に経営を委託される存在です。多くの中小企業は、オーナー兼社長なんですね。

つまり、世の中の社長は、すべて『雇われ社長』なのです。オーナー兼社長の場合は、オーナーである自分に、もう一人の自分が雇われているのです。

何でこんな当たり前のことをわざわざ言うのかというと、『オーナーだけど今は適任がいないので社長もやっている』という、一種の切り離し意識を持つことが、実は極めて重要だからです

特に自分で創業した会社の場合、経営者の思い入れは強いものです。それは一見いいことですが、時には反対の作用を及ぼします。考えられるのはこんな感じ。

  • 会社のお金(モノ)と自分のお金(モノ)を混同する
  • 会社や社員は俺の子供だ!と思うが相手はそう思っていない
  • 会社がブラック化する
  • ブラック社員の首を切れない(自分の子供だから)
  • 事業の撤退時期を見誤る
  • 資金繰りに窮したら自分のお金を入れる(銀行評価マイナス)
  • 自分の会社に対する客観的評価ができなくなる

結果、会社のためなのか社長のためなのか、社員はわからなくなり、モチベーションが低下することにもなり得ます。

自社の評価についてもそうですね。社長が「うちはこれくらいの価値はあるはずだ」と思っていても、客観的に見たら、どう考えてもその5分の1くらいとか。そんなことも、M&Aの仕事をしていると実によくあります。

そして、そのことを伝えると、だいたい感情的になります。「お前は表面的なことしか見てないからそう思うんだよ」と言わんばかりに。でもね、表面的なことで評価をするのがバリュエーションなので、それはしょうがないんですよ。あとは、買い手企業がシナジーを見込んでプラスα付けてくれることを期待するしかないんですね。

つまり、感情が入りすぎて、実態が見えなくなるのです。上述した「撤退時期を見誤る」ことも、それに起因します。その場合、死活問題です。

また、会社に自分のお金を入れることを(銀行評価マイナス)と書きましたが、なぜマイナスなのかというと、わかりやすい公私混同だからです。会社のお金を借りる場合も、もちろん同様です。これらの場合、決算書に載らない程度の短期間で返すならまったく問題ありません。しかし、多くの場合、何年もそのままだったり、年々額が増えたり。これでは銀行の評価は上がりません。

もっと言えば、ここでも書いたような個人保証」の問題にも絡んできます。経営者保証ガイドラインでは、役員借入れなどの公私混同がないことが、個人保証を外す条件です。つまり、公私混同が見られる会社は、それだけ信用できないという評価なのです

そんな弊害を排するため、『オーナー社長』という間違った意識を今すぐ捨てるべきです。株主であるあなたと、社長であるあなたは別です。別人格を持って、常に会社を客観視するのです。そこにデメリットはひとつもないはずです。

さらに言うと、『やっぱ自分は社長に向いてねーな』とか『このサイズになってくると自分よりも適任者を探さないといけないな』と、自分で自分をクビにすることも、時には必要です。社長にそれくらいの客観性があれば、社員の定着率はもっと上がるでしょう。

どうですか?自分をクビにできますか?

客観的に見て「自分が最も適任」だと言えるなら、続投すればいい。でも、優秀な部下が育ってきているなら、一度交代してみてはどうですか?ダメなら、それこそまたクビにすればいい。オーナーにはその権限があります。少し余力があるときじゃないと、土俵際に追い込まれるとそんな余裕もなくなりますよ。

自分の会社を客観視する。健全な経営のためには、とても重要なことです。

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