M&Aの仕事していると、会社や事業の可能性を様々な方法で調べることが日常的にあります。それはそれで、私自身にとっても勉強になるプロセスなのですが、それですべてわかるというわけでは当然ありません。
例えば、帝国データバンクなど調査機関の評点が高かったとしても、だから安泰という短絡的なものではないですよね。非常に参考にはなりますが、すべてわかるわけではありません。また、M&Aの最終契約前には、デューデリジェンス(DD)という財務や法務の詳細調査を行いますが、DDでどこまでわかるのかと言えば、これまた全部はわかりません。
いずれも、とても感覚的ですが、せいぜい7割程度だと思います。
7割わかれば御の字
新規事業の事前調査もそうです。どれだけ綿密にシミュレーションしても、せいぜい7割。人、市場、自然などの変数が複雑に絡み合う環境の中で、10割の確率で成功する事業など、この世に存在しません。7割もわかれば御の字です。
いろんな経営者を見ていると、そんな中で事前の調査に時間をかけすぎているところをよく見かけます。そして、その多くは業績不振に苦しんでいます。だから尚更、失敗への恐怖が強くなるんですね。
気持ちはわかりますが、どれだけ調べても、せいぜい7割です。あとは、フィーリング。7割くらいはOKでも、どうしても残り3割が気持ち的にしっくりこない。社長がそんなときは、やめた方がいい。7割OKで気持ち的にもしっくりきたら、迷わず前に進むべきです。
ただし、この場合、「気持ち」が全面に来ると厄介なんですね。やりたい気持ちが前面にあると、調査にバイアスがかかり、結論ありきの調査になってしまいがち。まあしかし、それだけやりたいなら、やればいいとも思いますけどね。
自分の経験も含めて、私がいろいろ見てきた中で思うのは、着実に成長している会社は、ポイントだけをしっかり押さえて、後はざっくりです。ポイントと言うのは2つで、失敗しないためのポイントと、撤退ポイント。要は、成功とは言えないけれど、失敗でもないという状態に持っていければ、まずは良しとする。
考えてみれば、世の中のほとんどの中小企業がこの状態です。そこそこ利益が残って、そこそこ楽しい。そんな事業が最も幸せで継続的なのかもしれません。もちろん、大きく成長できる事業を求める気持ちもわかるし、そこに起業の意義があるという考え方もあります。しかし、それを狙うあまり、企業の土台がぜい弱になるのは本末転倒です。
撤退ラインを決める
そして、「このラインを割ったら即撤退する」というポイントを決めておく。これはマストです。多くの場合、この撤退ポイントを誤ってしまうので、出血多量になってしまうのです。ここは感覚的ではなく、最初から定量的に判断できるようにしておきべきです。これまでにかかったコスト、関わってくれた人たちなどが頭によぎり、なかなか撤退の決断は出来ないものです。だからこそ、最初にポイントを決めておくのです。
コロナを機に「7割経済」と言われるようになりました。つまり、売上はコロナ前の7割になり、それはしばらく戻らないということです。原油をはじめとする原料高や、今のロシア・ウクライナ情勢などを勘案すると、売上は7割でもコストは10割、つまり減るべき変動費が減らないという世界も想定できます。
そのような環境では尚更、いつまでも調査に時間をかけないで、7割わかればスピーディーに進む。ただし、撤退ラインを明確にしておく。新規事業の9割は失敗します。このことを忘れないでください。