ワクワク感こそが経営者のエネルギー

とあるM&A案件で、買い手企業の社長と話しているときのこと。そこは今、ある画期的技術の実用化を控え、それを量産することのできる技術と設備を持った会社の買収に動いています。

その案件では当社は仲介なので、どちらかに肩入れすることはなく、あくまでも両者にとって最適な解を見つけ、ディールを進めていく立場です。しかし、その社長のビジョンを聞いていると、いつも興奮してしまい、自分の仲介によってそんな新しい世界が拓けるのは素晴らしいと夢想してしまいます。

いや、私が興奮したらダメですねと、笑いながら自分を制すると、その社長は「でもね、毎日毎日、グループ企業の誰かが退職したとか、誰かが事故を起こしたとか、そんな話しばっかくる中で、じゃあ我々のモチベーションはどうやって維持するのかといえば、もうこのワクワク感しかないじゃないですか」と。

それは本当にその通りなんですよね。特に新規事業なんて1勝9敗の世界で、1勝にはこの上ない快感を覚えても、9敗には反省はあっても喜びはないわけです。また、貴重な1勝もそれを継続していく緊張感に瞬時に支配されます。そうしないとすぐに食われる。そんなドMワールドに住んでいるのです。

会社は当たり前に完全成果報酬です。しかし、社員には固定給、事務所の家賃も固定費なんですから、ただでさえ気の抜けない日々を送っているのです。そして、せっかく育った社員がいとも簡単に退職となると、胃が痛くならない方がおかしいくらいです。

その会社は業績順調で、特にお金の心配があるわけではありません。でも、そんな安定感よりも、こんな新しい世界を創るんだというビジョンと、それに向かうワクワク感の方が遥かに勝る。それは決して一社でできるものではなく、何社もの共同体で取り掛かる必要がある。今動いているのはそのためのM&Aです。

M&Aって、売り手側にとっては、業績不振の救済型や再生型も多い。もちろん、それはとてもやりがいのある大切な仕事なのですが、その場合は未来を拓いていくワクワク感には直結しません。

一方、買う側にとっては、シナジーを生かして1×1を100にできる可能性もあります。もちろん、0やマイナスになる可能性もありますが、あくまで100にするためにどうするかを考えるのが買い手にとってのM&Aです。

そういえば、私自身も経営者仲間と食事しているときなんかは、大体この手のワクワク話で盛り上がります。内密の話も多いので、話せる相手が限られていることもあるのでしょう。そして何より、そんなビジョンの共有が明日のエネルギーになるのです。

経営者、特に創業経営者は、そういう生き物のようです。

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