ぶっちゃけ、会社の社長というのは、世の中で最も「潰しがきかない」職種なんですよね。私は元新聞記者で、あの仕事も潰しがきかない代表例ですが、とりあえずまだ文章スキルは磨けます(ただし、新聞記事自体は極めて特殊なスタイルなので、長文コラムなどの経験を積んだほうがいいですが)。でも、経営者というのは、本当に潰しがきかない。
考えたら、それは当然のことです。一人企業を除いて、会社というのは「人に稼いでもらう」場所です。そのためにゴール設定とビジネスモデルを作り、適材適所に人を配置するのが社長の役割です。現場仕事してる社長は、社長の役割をサボっています。
もちろん、経理は経理担当に任せてノータッチとかはダメですよ。それはそれで社長業の放棄です。もっといえば、外部の税理士に任せているなんて言語道断。お金の管理は社長の役割です。現場仕事で「仕事している感」を出している社長に限って、こういう人多いんですよね。決算書読めないとか。
つまり、経営者は経営者のスキルというものがあり、それを磨くのが自分のミッションなので、現場で稼ぐスキルはなくて当然。もっとも、多くの場合、創業当初は自分で稼いでいたわけなので、元々スキルはあるはずですが、会社の成長にしたがって磨くべきスキルが違ってくるのです。
私自身の例で言えば、まず銀行には融資絡みの話以外では行ったことがありませんでした。会社のお金は、通常はネットバンキングですが、支店に行く必要があるときも、経理担当の社員が行きます。自分の給料も自分で出すことはなかったので、通帳はおろか、キャッシュカードも一切持っていませんでした。もっと言えば、出張時のホテルや新幹線、飛行機などの手配も、自分ではやらない時期が長くありました。
創業当初は会社サイトも自分で作ったりしていましたが、そんなことはいつまでもできない。当然、技術系の社員がそれを作るわけですが、特にこの業界は技術の進歩が早く、数年ブランクがあるともうド素人と変わらない。
また、私の例ではないですが、電車の切符を何十年も買ったことがない社長も身近にいました。
そんな状態が長く続くと、もう自分ひとりで稼ぐスキルは見る見るなくなっていくんですね。でも、役割分担して、社長としての自分のスキルを磨いてるんだから、それでも問題ない。
ただ、会社経営は山あり谷あり。実にいろんなことがあります。特に、社員がそこそこ増えてくると、予測不能な事態も指数関数的に増えてきます。そこに、社会情勢なども絡んでくる。そんな変数だらけの中で、一生波風立たないような会社は存在しません。
上記で書いた、切符を買ったことのない社長。移動は運転手付きのベンツでしたが、あるとき、その会社も苦境に陥って、自社ビル(それがまた名古屋の立派なビル)売却、車も処分、社員も大半解雇という苦しい状態になっとき、私との待ち合わせに電車で登場し、「切符の買い方がわからなくて、駅員に聞いちゃったよ」と笑っていました。
その人は、食事中も「これからもう一回復活するんだ。面白いよね」と繰り返してました。そんな胆力の塊のような人で、その後見事に大復活しましたが、中には会社を何らかの形でたたんで、自分で一からやるか、会社員に戻るという人もいると思います。その時に、社長業の潰しのきかなさを実感するのです。「よく考えたら、俺は何もできねーな」と。
元ワイキューブの安田さんも常に同じようなことを言っていますが、社長も副業して自分で稼ぐ必要があるのかもしれません。それをする利点は、自分自身の「潰し」だけでなく、収入を会社に頼らない経営をすることができることなんですね。
人に稼いでもらうことが社長の役割ですが、それをすることで、一種の共依存状態になります。社員に稼いでもらわないと自分の給料が取れないわけですから。結果、正常な判断ができなくなるのですね。切るべき社員も切れなくなる。言うべきことも遠慮してしまう。私自身もそんな経験がありますが、そうなると会社は傾き始めます。
そうならないためにも、社長は別法人でも個人事業でもいいので『副業』で収入を得る状態にしておいた方がいいのです。何でもかんでも人にやってもらう社長(それ自体は仕方のないことです)は、そのために自分で稼ぐスキルを磨いておきましょう。