自社を知るためのM&A思考

自分のことは、自分よりも身近な人の方がよくわかっていたりします。意外と自分で自分のことはわかってないところがあるんですよね。私の場合も、恐らく自分よりも妻の方が私のことをわかっています。自分ではまったくそんな自覚がなくても「なんか焦ってるよね」なんて言われて、冷静に考えると確かにそうかもなと。

会社もそうなんですよね。経営者であれば、自社の現状を正確に把握して当たり前と思われがちですが、案外わかっていません。

理由はかんたん、感情が邪魔をするからです。

自分の会社を愛する気持ちは、経営者なら誰もが持っているはずです。みんなでこんなにがんばっているのだから、もっといい状態のはずだという気持ちもあるでしょう。でもそれって、現状把握にはマイナスです。

商品なんかもそうですよね。自分の商品を愛するあまり、かなり的外れな方向になっていてもお構いなしに突き進んで、結果、やっぱりほとんど売れないと。

あるいは決算書。決算書の見方がわからない経営者は論外ですが、見てはいてもその数字が持つ意味を読み解ける人はわずかです。

もっと言えば、決算書しか見ないから現状がわからないということも言えます。どういうことかというと、本来決算書(BS/PL)というのは、税金の計算をするための「税務会計」であって、自社の現状を正しく把握するためのものではないからです。もちろん、決算書は超重要なものではありますが、それ以外にも様々な指標があるということです。

たとえば、同じ会社で複数の事業をしているとしましょう。中小企業であれば、同じ人が別事業を兼務することも珍しくありません。「管理会計」的には、その場合も人件費を半分に割ったりしてコストを管理します。でも、そこまでやっている会社は少ないはずです。かなり感覚的にやっていると思います。

ただ、それでは何が儲かっていて何が赤字なのか、正確にはわかりませんよね。事業を続けるか撤退するかの決断も、それではズルズルと先送りになります。

そこで、私がひとつお勧めするのが、M&A思考です。

これはどういうことかというと、自社を売りに出す想定で、バリュエーション(企業価値評価)を行うのです。仮に赤字が続いて債務超過という状態であれば、株式の売却(株式譲渡)よりも事業を切り分けて譲渡(事業譲渡)する方法もあります。いずれにしても、その際は事業ごとに明確にコスト計算しますよね。

M&Aする気がなくても、(お金はかかりますが)専門家に依頼してバリュエーションしてもらうのです。ただし、その気がないのにやる振りをして、ただでバリュエーションしてもらおうというのは絶対にやめてください。それは必ずわかりますので、業界内の横のつながりでブラック情報は共有されてしまいます。

M&Aの際のバリュエーションというのは、あくまで目安の金額であり、あくまで最終的な価格は買い手が決めます。買い手が5000万というものを、うちは8000万の価値があると主張しても、意味はないですよね。もちろん交渉のプロセスはありますが、基本はお金を出す買い手の意思に売り手が合意するかどうかです。しかし、専門家であれば、業界内のトレンドなどを総合的に見て、目安となる金額を客観的に出すことは可能です。

会社、あるいは事業がどれくらいの価値があるのか。それを客観的に把握できるM&Aのプロセスは、経営者が学んでおくべきことだと私は思っています。

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